輸出代金を払ってもらえるか? 海外企業の与信判断

文字通り、取引先は海の外。
・相手の素性やマーケットの情報など、圧倒的に情報が足りない。
・ある程度のロットがまとまらないと採算に乗らない場合が多く、取引き金額も高額となる。
その売掛金、本当に払ってもらえるでしょうか?
代金回収を確実に行う必要があるのは、国内も海外も同じ
輸出者にとって最も重要な関心事項の一つは、「輸出代金を本当に払ってもらえるか?」という不安です。もちろん、国内取引においても代金回収は確実に行うことが基本であり、事前に顧客を訪問したり、信用調査会社から企業レポートを取り寄せたりして検討します。しかし相手が海外企業となると、こうした慎重な姿勢を欠いて安易に出荷してしまい、代金未回収のリスクが高まる可能性もあります。
与信枠の設定
信用状(L/C)を開設してくれる買主であれば、その買主は輸入地の銀行から一定の信頼を得ており、代金回収ができないリスクは低減します。一方、送金での支払いを受ける場合には、特に海外の買主に対する与信判断が重要です。与信判断とは、「この買主に対して、いくらまで売掛金や後払いの「ツケ」が積み上がっても回収できるか」を決めることを指します。これを「与信枠の設定」と言います。与信枠の設定は、買主についてのさまざまな情報を収集し、総合的に判断することによって行います。
与信枠設定のための情報収集
(1) ホームページによる情報収集
ホームページは「盛って」作られることもありますが、ある程度の情報は得ることができます。買主のホームページだけでなく、企業名に「Directory」や「Business Report」「Reputation」「Review」「Job Opportunities」などのキーワードを加えて検索すると、関連情報を見つけられることがあります。
(2) OpenCorporates
世界中の企業情報を提供しており、企業名で検索すると法人番号や、事業内容、事業ステータスなどが確認できます。
https://opencorporates.com/
(3) Google Mapでの実態確認
Google Mapで買主の本社社屋や周辺の状況を確認し、実際に存在しているかをある程度把握できます。
(4) KOMPASS
JETROの東京本部で利用できるサービスで、企業ダイレクトリーとして情報を提供しています。与信枠設定に関する具体的な情報は得られませんが、企業が実在するかどうかの確認には役立ちます。
https://www.jetro.go.jp/db_corner/
(5) 現地での情報収集
可能であれば、海外出張して買主の事務所を訪問し、実態を確認します。事務所や倉庫の整理整頓状況、従業員の様子、営業車の整備状況などを確認することができます。
Web面談でも、相手の社長や担当者の状況はある程度分かるでしょう。
また、買主の顧客を訪問して評判を聞くのも有効ですが、自社に都合の良いところしか紹介しないと思われます。
実際に現地に行くことが理想ですが、現実的には信用調査会社を利用して情報を得る方が効率的です。
(6) 主な海外信用調査会社
与信判断のために、買主の信用調査を行うことが重要です。主な海外信用調査会社は以下の通りです。
① D&B(ダン&ブラッドストリート)
米国の大手企業情報サービス会社で、その調査報告書は「ダンレポ」として知られています。日本では東京商工リサーチと提携しています。
https://www.tsr-net.co.jp/service/detail/dun-report.html
② コファス
取引信用保険や企業情報、債権回収などの分野で世界的にリーディングカンパニーです。日本ではコファス・サービス・ジャパン株式会社が提供しています。
https://www.coface.jp/
コファスを利用するには年間契約が必要ですが、ジェトロ・メンバーズ会員は特別料金で外国企業信用調査サービスを1件から利用できます。
https://www.jetro.go.jp/members/memberservice/option/creditcheck.html
③ クレディセイフ
欧州の大手信用調査会社で、日本では株式会社クレディセイフ企業情報が提供しています。クレディセイフのHPには参考になる情報もあります。
https://www.creditsafe.com/jp/ja.html
④ 日本貿易保険(NEXI)の信用調査報告書の代替取得サービス
貿易保険を利用するには、買主がNEXIの海外商社名簿に登録されており、格付けが設定されている必要があります。NEXIのWebサービスにユーザー登録すると、海外商社名簿から格付けを確認できます。ただし、これは保険引受けのために設定されたものであり、取引の安全性確認には直接的な適合性を保証するものではありません。
中小企業は8件まで無料で信用調査依頼ができます。
https://www.nexi.go.jp/procedure/consult/price_list.html
具体的な与信枠は、商品代金、売掛金回収期間、継続取引の場合の各回の取引金額など、買主の信用格付けや財務状況、過去の支払い履歴、主要顧客、業界の状況など複数の要素を総合的に評価し、リスクを加味して決定します。最終的には、全く回収できなくなった場合の自社への影響も考慮に入れて判断を下します。
以上
三上 彰久