異文化を理解するにあたり、我々は自然と自分の価値観を中心に据え、自分の持っている考えを「常識」と捉えて、自分たちと違う文化を持つ人たちとの「差異」を考察することになりがちです。 我々は日本人なので、日本人の持つ常識や考え方を中心に据えて「当たり前のもの」として考えてしまいがちなのです。 しかしエリンメイヤー のカルチャーマップ を見ると、その多くの指標において、日本は極端に端っこにプロットされており、我々日本人の持っている「常識」は、世界においてはまったく当たり前のものなどではなく、日本人は世界において、かなりの「変わり者」と見られているということがわかります。 それではなぜ、日本人は世界の中で特異性のある文化を持つようになったのでしょうか? それには、いくつかの要因が考えられます。
・日本が島国であること。しかも東側には巨大な太平洋があるため、他国との文化的交流が中国・朝鮮とのものに限られていたこと。
・日本はほぼ単一民族で、世界最長の2700年に渡る単一王朝のもとで独自の歴史を積み重ねてきたこと。
・他民族からの侵略を受けにくい地形であり、アジアにおいてはタイとともに数少ない植民地支配を受けた経験のない国であること。
・日本語という特殊で難しい言語を使用してきたこと。
もちろん日本も完全な単一民族国家ではありませんし、他国の侵略を受けた歴史も皆無というわけではありません。
日本よりさらに絶海の孤島で育まれた文化も存在します。
しかし、陸続きで侵略をしたりされたりの繰り返しで、時々の支配者が変わることが当たり前であった欧州各国や、移民国家であるアメリカやカナダ、オーストラリアなどの先進各国、長期にわたり欧米列強の支配を受けてきたアジアやアフリカの国々と比較して、他文化との交流が極めて限られてきたという日本の歴史の特異性は、世界の中でも際立っています。
ホフステードやエリンメイヤー の研究では、各国文化の相対的な位置が示されることにより、世界各国の文化を一元的に俯瞰することができます。
しかし、なぜそのような違いが生じるのかについては、一部の宗教観の違いによる要因には触れられてはいるものの、現象の背後にある原因については多くは考察されていません。
文化の違いの背後にある要因を解き明かすことができれば、その要因を分析することによって、その国や民族の持つ文化を推定することができるようになるはずです。
そこで、ワールドビジネス研究会異文化理解分科会では、文化の違いを生み出す要因について、次のような仮説を設定しました。
<文化の違いを生じる要因>
1 地理的要因 住んでいる場所の条件の違い
・気候(常夏、寒冷、四季の有無)
・農耕適性(多雨、乾燥、河川、山地・平地、気温差)
・自然災害(干ばつ、洪水、地震)
・作物(稲作、小麦、イモ、トウモロコシ)
・大陸・島国、大国・小国(異文化とのかかわり)
・人種(体格、暑さ・寒さ・太陽光への耐性)
・言語(国際・ローカル言語、表音・表意文字、語彙)
2 歴史的要因 民族が経てきた経験の違い
・他民族による侵略・支配・植民地化
・民族の移動・移民によって作られた国か
・戦争・革命(市民革命・産業革命・共産革命・イスラム革命・文化大革命)
・政治体制(専制・絶対王政・共産党独裁・(軍部)強権政治
・大航海時代における繁栄・世界との交流、鎖国
3 規範要因 政治・経済状況や宗教による行動規範の違い
・キリスト教(カトリック・プロテスタント)
仏教・イスラム教・儒教の教え
・バラモン教・神話・土地の精霊信仰
・政治指導者の考え方
・教育の方針
「こう考えるべき」「こう行動すべき」という規範の形成に対して影響
文化の形成に対してベースとなるのが、住んでいる場所の条件の違いである「地理的要因」です。
そしてそこに影響を与え変化をもたらすのが、その民族が経てきた経験の違いである「歴史的要因」。
さらに、宗教や政治指導者、教育などによる規範の形成は、リアルタイムに人々の考え方に大きな影響を与え続けています。
そして、文化の違いを形成する要因には、普遍的に変化しない要因と、経済発展段階や政治体制の変化などにより移り変わっていく変化する要因があります。
当分科会においては、これらの仮説をさらに深掘りし、検証してきたいと考えています。
中小企業診断士 池田真一郎