日中韓の「姓名」事情

 日本、中国、韓国の3カ国は、名字(苗字、姓名)に「漢字」を使用するという共通の文化があります。
文字は文化の基本要素ですが、同じ「漢字」を使用しているそれぞれの国で異なる慣行が出来上がっています。国家の体制、社会的環境などの歴史的背景がもたらしたものであり、それは同じ漢字文化圏の中の「異文化」です。

 私は、自分の名前には深い関心は持っていませんでしたが、わが家は父祖代々の「姓」を継承し、男の子はその「姓」を結婚後も維持し、女の子は結婚すると夫の「姓」を名乗るというのが【当たり前】だと思っていました。
 日本では結婚して戸籍を作成するときには、現行法では夫と妻のいずれかの姓を届ける制度ですが、実質的に夫の姓を名のることが多い。現在、別姓を認めるべきだという論議が起こっています。

 しかし、社会人となって日本以外の国の人々との交流が増えてくると、この【当たり前】は、日本の文化であって、他の国々では異なっていることを体験する機会が増えてきました。

 先ず、隣国の中国、韓国では、結婚後も女性は結婚前の家族の「姓」を維持しています。例えば、韓国女性の「李」さんは、夫が「金」さんであっても、結婚後も「李」姓を名乗っています。この場合、生まれた子供は、「姓」は父親の「金」を名のります。
 中国、韓国は先祖を尊ぶ伝統があり、代々受け継がれた名字を大切にして来た結果、「姓」の数は、中国では約500、韓国では286種と少ない。
 韓国の場合、「五大姓」と言われる「金」「李」「朴」「崔」「鄭」の5つの「姓」が人口の過半数を占めているのが特徴です。私は1970年代に当時勤務していた企業の貿易活動で韓国によく出張しましたが、当時入手した名刺の1/3が、李姓か、金姓でした。
 これに対して、日本は同姓が増えると紛らわしいという考えからやたらに違う「姓」を立てたと言われており、多種多様な「姓」が生まれています。その数は約30万種と言われています。
 日本では江戸時代、原則として公家、及び武士または豪農、豪商などの支配階層にのみ「姓」を名のることが許されており、その人数は国民の6%程度でした。このため、百姓や町人は「姓」の無いのが当たり前でした。

 明治3年(1870年)に『平民名字許容令』が布告され、これにより平民も自由に名字(姓名)をつけることができるようになりました。その後、全国の国民に対し、名字を定めることが義務化されました。

<後日談>

 「韓国では同じ『姓』の人が多いので『姓』だけで呼ぶ習慣がない」「呼ぶときにはフルネームあるいは名前だけ」「『姓』だけに敬称(さん、・・・氏)をつけて呼ばれると違和感がある」という説もあるようです。

 最近中国から来日した友人に中国の名字に関する話を聞いたところ、下記のコメントがありました。

1.中国の名字の数は、常用は500としても、実際には5,000は有ると思われる

2.4大姓は、張、王、李、劉であり、この4大姓で7%に当たる(人数にして約1億人)

・因みに、私の友人たち「馬」や「林」姓は、それぞれが1%程(それでも、約1400万人)

・中国が人口の面でも大国であることがわかる事例です

 文化の差の要因として、ホフステードの権力格差という指標で、中国と日本を比較すると中国>日本であり、また、集団主義の指標では中国、韓国>日本とされています。こうした文化の特徴が反映しているのかもしれません。

中小企業診断士 清水敬之

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