ホフステードの6次元モデル

異文化理解の研究を進めるにあたり指標となるものとして、ホフステードの6次元モデル、エリン・メイヤーのカルチャーマップという2つの研究があります。

オランダのヘールト・ホフステード博士は、IBM社の人事部門で従業員満足度調査を行う中で、同じIBM社の社員であっても、国によって従業員の意識に差があることに気づきました。1967年から72カ国11万6千人を対象とするの意識調査を行い、国と国との差を6つの指標で表現し数値化したものが、ホフステードの6次元モデルです。

<ホフステードの6次元モデル>
・権力格差
・個人主義・集団主義
・男性性・女性性
・不確実性の回避度
・長期志向・短期志向
・人生の楽しみ方

権力格差


権力格差が大きい
・中央集権的
・人々の間に不平等があることは予期されており、望まれてもいる
・部下はすべきことを命じられることを期待している
・権力の弱いものは強いものに依存すべき
・理想的な上司は慈悲深い独裁者・良き父

権力格差が小さい
・分権的
・人々の間の不平等は最小限にすべき
・部下は相談されることを期待している
・権力の強いものと弱いものはお互いに依存すべき
・理想的な上司は才能豊かな民主主義者

*各指標の解説はホフステード「多文化社会」より抜粋・要約、または筆者の解釈により文言を変更

<当サイト筆者コメント>
アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドなど移民中心の社会は権力格差が小さい傾向にある。若いスタッフが社長に向かって「ハイ、ボブ!」などと気軽に呼びかけることは、日本人にとってカルチャーショックとなることが多い。
逆にアジア諸国は日本より権力格差が大きいため、ボスに対してスタッフから話しかけることにはハードルがあることを理解する必要がある。
また権力格差が大きい国においては「決めるのはボスの仕事であり自分たちの役割ではない」という考え方があるため、アジア諸国でのマネジメントにおいて、日本人のマネジメントが、ナショナルスタッフに対して「指示待ちで自分の頭で考えない。甘えがある」という不満を持ち、逆にナショナルスタッフが日本人上司対して「ボスなのに決めない。指示があいまい」という不満を持ちがちであることの要因となる。

個人主義・集団主義

個人主義的
・集団の利益より個人の利益が優先される
・雇い主と社員の関係は相互契約である
・職務が人間関係より優先される
・所有権は個人のものであり家族や集団とは共有されない
・誰もが個人の意見を持つことが期待される

集団主義的
・個人の利害より集団の利害が優先される
・雇い主と社員の関係は家族関係と同じく道徳的なものである
・人間関係が職務より優先される
・資産は親族と共有されるものである
・意見は集団の成員によりあらかじめ決められている

<当サイト筆者コメント>
日本はアメリカや西欧諸国よりは集団主義であるが、アジアではインドと共に最も個人主義的である。
日本人から見ると欧米企業の労使関係は仕事とお金だけのドライなものに見えるが、アジア諸国での会社経営では、日本よりずっと家族主義的でウェットなありかたが期待されており、社員旅行や宴会、社内運動会など集団行動への参加期待が高く、社員の冠婚葬祭などへの仕事上のボスの参加が求められる。

男性らしさ、女性らしさ

男性らしさが強い
・働くために生きる
・挑戦・収入・評価と出世が重要である
・余暇よりお金が好まれる
・報酬は公平性(仕事の成果)に基づく配分

女性らしさが強い
・生きるために働く
・人間関係と生活の質が重要である
・お金より余暇が好まれる
・報酬は平等性(均一な配分・あるいは年功序列や扶養家族の数)に基づく配分

<当サイト筆者コメント>
「男性性・女性性」という表現は、ジェンダー問題と混同されやすく誤解を生みやすいと思われ、「ワークライフバランスのうちワークが重視されるかライフが重視されるか」と解釈する方が理解しやすい。
また、日本のスコアが非常に高くなっているが、これは日本人が「エコノミックアニマル」と言われた’70年代から’80年代の調査結果の影響が残っているためであり、現在では変化しているのではないだろうか?

不確実性の回避

不確実性を回避する
・不確実性は脅威であり、取り除かれなければならない
・ストレスが高く不安
・不幸だと感じる人が多い
・雇用先を変えることが少なく、勤務時間が長い
・規則を求める
・常に一生懸命働く
・自営業が少ない

不確実性を受け入れる
・確実でないことは自然なことであり受け入れる
・ストレスや不安は低い
・不幸だと感じている人が少ない
・雇用先を変えることが多く、勤務時間が短い
・絶対に必要な規則以外は必要ない
・必要な時に働く
・自営業が多い

<当サイト筆者コメント>
「不確実性の回避」という表現は二重否定になっており理解しにくいが、「リスクを取ってやってみる」か、「リスクのあることはやらない」かの違いと当サイト筆者は解釈する。日本人は世界でも有数の悲観的な考え方を持っており、確実なことのみを実施する。しかし進出先の多くの国ナショナルスタッフは、「まずやってみてから考える」という進め方が正しいと思っており、そこに対立や不満が生じやすいことに留意する必要がある。
また日本人の慎重な姿勢は、日本企業は決定のスピードが遅いという評価の要因ともなる。


長期志向・短期志向

長期志向
・10年先の利益が重要である
・結果が出るのに時間がかかっても辛抱強く努力する
・徳のある行動をとることに関心がある
・市場での地位に焦点が置かれる
・生涯続く人的ネットワーク関係に投資する

短期志向
・当年の利益が重要である
・努力はすぐに結果に結び付かねばならない
・真理の獲得に関心がある
・最終利益に焦点が置かれる
・個人の忠誠心はビジネス上の必要に応じて異なる

<当サイト筆者コメント>
圧倒的に東アジア諸国の長期志向スコアが高い。
「多文化世界」においてもその要因として考察されているが、孔子の教えである儒教の影響が、ビジネス文化に強く反映しているものと考えられる。
また社会主義体制を経験した国々は比較的長期思考である傾向があり、これは「5ヵ年計画」による経済運営が行われたことが影響している可能性がある。

人生の楽しみ方

放縦度が高い
・楽観的
・非常に幸せな人々の割合が高い
・人生はコントロールできる
・倹約は重要でない
・緩い社会
・道徳的規範が少ない

抑制が強い
・悲観的
・非常に幸せな人々の割合が低い
・自分に起こることは自分ではどうにもできない
・倹約は重要である
・きつい社会
・道徳的規範が多い

<当サイト筆者コメント>
「世界幸福度ランキング(2023年)」によると、北欧諸国の人々は幸福度が高く、日本人は47位と比較的低い傾向にある。また大国の中で最も幸福度が低いのはロシアの70位である。
ホフステードの6つに指標の中では「不確実性の回避」が低いほど幸福と感じる人が多く、また「人生の楽しみ方」で放縦度が高いほど幸せな人が多い。ロシアは不確実性の回避指標が最も高く、人生の楽しみ方においても抑制が最も強いので、幸福度ランキングの指標と合致する。日本人の幸福度が低いのも、日本人が心配性で悲観的、厳しく道徳的であるという日本の性質に起因するもとの考えることができるのではないか。

中小企業診断士 池田真一郎

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